宇都宮大学オプティクス教育研究センターの早崎教授、長谷川准教授らの研究グループは、レーザー加工機の精度と速度を飛躍的に向上させるホログラフィックレーザー加工(図1)に関する技術を2005年に開発しました。ホログラフィックレーザー加工とは、空間光変調器(※1)に表示された計算機ホログラム(※2)にレーザーを照射すると、コンピューター内で設計した任意のビームパターンが、理論的には効率100%で現実空間に生成され、このビームパターンを材料に照射することで一括で加工を行う技術のことです(図2)。この技術により、既存のレーザー加工機と比較して、精度を10倍にしながら、速度を100倍に向上できることを示しました(※3)。
図1.ホログラフィックレーザー加工
図2.計算機ホログラムによる生成ビームを用いた一括加工の例
※1 空間光変調器
光の複素振幅(光の振幅や位相)を2次元空間的に変調する装置のこと。用途に応じて、液晶素子や音響光学素子、およびMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の複数のタイプがある。計算機ホログラムの表示デバイスとして用いられる。レーザ加工用途では、主に液晶タイプが用いられ、高出力なレーザー照射に対する耐光性が求められる。近年の研究開発の進展により、波長1umの連続波レーザーに対しては700W、超短パルスレーザーに対しては150Wの耐光性を有する液晶空間光変調器が市販化されており、今後も更なる耐光性の向上が見込まれている。空間光変調器の耐光性の向上とともに、レーザー加工機へのホログラフィック光学エンジンの搭載がこれまで困難であった、金属の溶接や切断、積層造形への応用が期待される。
※2 計算機ホログラム
物体から回折された光の複素振幅分布の情報が記録されたデジタル画像データのこと。計算機ホログラムにレーザーを照射すると、コンピューター内で設計した任意の光パターンが生成される。再現したい物体の形状(2次元、または3次元)を仮定し、その物体にレーザーを照明すると光の回折が生じる。コンピューターを用いた回折理論により、回折された光の複素振幅分布を求め、符号化することで計算機ホログラムが得られる。
※3 参考文献
- Y. Hayasaki, T. Sugimoto, A. Takita, and N. Nishida, “Variable holographic femtosecond laser processing by use of a spatial light modulator,” Appl. Phys. Lett. 87, 031101 (2005).
- S. Hasegawa, Y. Hayasaki, and N. Nishida, “Holographic femtosecond laser processing with multiplexed phase Fresnel lenses,” Opt. Lett., 31, 1705–1707 (2006).
- S. Hasegawa, H. Ito, H. Toyoda, and Y. Hayasaki, “Massively parallel femtosecond laser processing,” Opt. Express 24, 18513–18524 (2016).
- S. Hasegawa and Y. Hayasaki, “Femtosecond laser processing with adaptive optics based on convolutional neural network,” Opt. Lasers Eng. 141, 106563 (2021).